title
HOME  ▲戻る


より大きな地図で London - Edinburgh - London 2009 を表示

ゴールシーン

▲ゴール時の筆者

PBPと並んで国際的なブルベにLELがあります。4年に1度開催され、31ヶ国からの参加があります。PBPが5000人を迎えるのに対しLELは600人程度と中規模です。

ブルベ界の異端児が、痛いレポートをお送りします。(今泉 洋)

家に帰るまでが遠足です---------リンレンと羊を追って1400km

INDEX

自己紹介 LEL参加への動機 LELの準備 Welcome to LEL2009 あわただしい出国 キレる入国審査官 観光日 登録日[Registration] LEL -1日目スタートはCheshunt駅 LEL -2日目寒さで目が覚める LEL -3日目小雨のスタート LEL -4日目雨の峠越えから LEL -5日目最終日となる予定の日 エピローグ


2009/7/26にイギリスで開催された、ロンドン-エジンバラ-ロンドンの1400kmブルベに参加してきました。

自己紹介

LELスペシャルデザイン

▲LELスペシャルデザイン。LEL1400kmと開催日入り、左側には羊も入ってます

僕は最近日本全国のブルベを絵のついたディスクホイールで走っています。この 絵がいったい何なのかと質問されることがあります。

ディスクに貼っているキャラクタ(鏡音リン・レン)は、コンピュータで人の歌声を合成するソフトのイメージキャラクターです。

僕はアマチュアとして、作曲した曲を歌ってもらったり(*1)、バンドのボーカルに利用したり(*2)していて、愛着のある機材のひとつなのです。

*1 ミクリンがブルベを歌った「ゴー☆サイクリング!
*2 リンレンが歌う少年ナイフ「Cycling Is Fun

LEL参加への動機

もともと僕が自転車に乗り始めたのは、大学生活の終わりに友達と北海道までツーリングをするためでした。
東京-宗谷岬1300kmを2週間で走る計画をしているとき、たまたま雑誌で見た超長距離サイクリングの記事では、同じ距離を数日で走る日本人がいるとのことでした。「クレイジーだ、僕には関係ない」

そう思っていたはずなのに、気がつけば2007年にパリ-ブレスト1200kmを制限時間ギリギリで完走。雨で象のようにふやけた足の痛みを感じつつも、ゴール後の会場に "LEL1400km" の宣伝を見つけていました。
イギリスといえばフランスより雨が多く、しかも帰りはすべて向かい風となるという。「クレイジーだ、僕には関係ない」

ところが2008年末、LELのサイトを何気なく見てみると「イベントは定員に達しました」とありました。予想よりかなり早い締め切りです。
ここで魔が差したように「あともう一人参加することはできますか?」と主催者に聞いてしまったところ、「宿は満員だけど、14:00スタートなら空いているよ」との返事がありました。
限定特価品、あと1つ! このような状況で選ぶべき選択肢はひとつしかありません。かくして、引き返すことはできなくなりました。

LELの準備

これが北海道で開催されるなら何の迷いもありません。しかし海外であることが気持ちのハードルを高くしていました。しかしさすがネット時代、準備で困ることはありませんでした。

申込書

▲PBPと同様の申込書。郵送手数料が5000円程度、参加費はお土産をあわせ220GBP程度でした

▲申込と送金

LELには参加資格が不要です。従って過去の走行実績の証明などはなく、主催者がメールしてくれたPDFファイルを印刷し、内容を記載して代金と一緒に郵送するだけでOK。
送金手段は国際郵便為替を用いるのが一番安くて確実である、とAJ宇都宮の坂東さんが調べてくださっていたので、便乗して一緒に送っていただきました。お世話になりました(__)

▲旅行計画

英語が苦手な僕には入国審査が一番緊張するところですが、ここはパックツアーか個人旅行かに拠らず、誰も助けてくれません。そこで今回は旅行会社を使わず個人で行くことにしました。

まずイギリスのことをガイド本で調べ、日程と移動手段を決めてから荷物を決定。輪行袋は海外用ソフトケースにして、背負っても移動できるようにしました。荷物はOrtliebリュックの中にOrtliebメッセンジャーバッグを入れていきます。
あとはネットで簡単に予約できました。

  → 飛行機 : Google AdSense が「ロンドン往復6万円!」と知らせてくれたので、British Airways を即決。(1月)
  → ホテル : Google AdSense が勧めた3サイトのうち、情報量と地図の使いやすさから Booking.com にて決定。(7月)
  → 保険 : 地球の歩き方に載っていたサイトで、対人補償を重視で選択。(旅行開始日)

またこの頃、Google Street View にロンドンが加わり、泊まるホテルの概観はバーチャルに体験できました。正確な位置をGPSに登録し、準備はバッチリです。

主催者からの連絡, Welcome to LEL2009

キューシート(ルートシート)

▲キューシート(route sheet)は全部で8枚でした

送金と参加受理がうまくいったのか不安になった6月末、主催者からメールが届きました。Wordで5ページの丁寧な参加案内と、PDFで8ページのキューシート(Route Sheet)です! 喜び勇んで参加案内を日本語訳しました。

ルート上には家畜逃走を防止する鉄の柵があるそうで、「ここに噂のパンク妖精が住んでいる」などと洒落たことが書かれています。北に行けば行くほど、路上に羊がいるのが当たり前・・・!
またルートシートには「注意! 木製の橋」とか「石畳につき徒歩での移動を推奨」などの記載があり、もうこれらを読んだだけで頭の中にはヨーロッパの風景が広がり、LELへのやる気があふれてきました。

あわただしい出国

重量オーバーが気になる空港での荷物預かり。「23.9kgまではスポーツ用品ってことで大目に見られるんですけどね~」と係員に気さくに話していただき、中身を調整して自転車を預けます。気がかりだったBOULDER SPORTS(肌荒れ防止スプレー)も問題なく通過し、一安心です。

成田で都合600GBPを両替し、12時間のフライト。旅支度の疲れからほとんど寝ている間にヒースローに到着しました。 入国カードの書式が変わっていて、どのガイドブックにも載っていないことに一抹の不安を感じつつ、さあ緊張の入国審査です。

キレる入国審査官

Oysterカード

▲Oysterカードと、そのカバー

僕は日常、英語を話す機会は皆無であり、1年ぶりでいきなり話すのがイミグレーションの場になります。常に混雑していて早く終わらせなくてはならないというプレッシャーがかかる中で、ネイティブな発音を聞かなくてはなりません。

「何日の滞在?」「ホテルの名前は?」までは良かったのですが、「10日間ずっとこのホテルに居るの?」あたりから回答につまります。(いいえ、半分は野宿かもしれませんが? とはとても言えません)

最後の質問「この旅行が終わったらあなたはどこに行きますか?」で詰まりました。

旅行が終わる = 家に帰るまでが遠足です = 帰宅

帰宅後にどこに行くとはどういう意味なのか? 翌日は仕事だし、次の週末はBRM808/809だ。うーん、うーん。と唸っていると、さすがに審査官がキレました。

「だから! お前の国に帰るのか! 家に帰るのか! それとも他にどこかへ行くのか聞いてるんだ!!」

ああ!そういうことか。すみません帰ります、おうちに帰ります!!

・・・この旅行でこれほど冷や汗をかいたことはありません。しかし、こんなことでヘコんでいる暇はありません。地下鉄に乗るためにSuicaのような Oysterカードというのを窓口で購入します。この係員の対応が先ほどと比べてあまりにも親切で、まるで神様のように思えたものでした。

そして、このカードのケースカバーには、こう書いてありました。

「家に帰るまでが遠足です」

だよねぇ・・・・。

その後、地下鉄を乗り継ぎ、宿に到着。4階まで荷物を押し上げたらもうクタクタになってしまい、そのままベッドに倒れこむと深い眠りに落ちました。

2日目は観光日

CYCLES UK

▲スポーツ自転車店はたくさんありました

ビッグベンと国会議事堂

▲国会議事堂(ビッグベン)と痛ディスク

BAロンドンアイ

▲巨大観覧車ロンドンアイからの眺め

このブルベ参加にあたり、"Renn"という名のクリンチャーディスクホイールを導入しました。そこに貼るLELスペシャルの新しいシールのため、各方面に多大なるご尽力をいただきました。これには行動を以って返礼するのが仁義というものでしょう。そんなわけで、ロンドンの街中を堂々と痛ディスクで走行します。

まずウェストミンスター橋を渡り、ビッグベンとロンドンアイを鑑賞します。
ロンドン市街地のラウンドアバウトは片側3車線のところもあり、混雑する車列を縫って内側に入るのにとても不安になります。でもこの国では自転車はクルマと同じ扱い。しっかり手信号で方向指示をすると、ドライバーはクラクションを鳴らしたりせず、右折時でもちゃんと道を譲ってくれます。

ロンドン塔からタワーブリッジを渡り、一路グリニッジ天文台を目指していると、スポーツ自転車店を見つけました。日本国内でもなかなか見つけられないのに! 感動して中に入ります。もってくるのを忘れたウォーターボトル、そして頑丈な「鍵」を購入。ついでにPowerBarも2本買っておきました。(これが後々大きな助けになります) UKではロードレーサーも普通にたくさん走っており、自転車専門店が多い環境なんですね。

店を出ると2人のサイクリストが声をかけてきました。「すごい、ナイスなホイールカバーじゃないか! どうやって作ったんだい?」「どこから来たの、やっぱり日本?」 そうさ、特注なんだぜと答えつつ、思いのほか痛ディスクへの反応が好感触なのに安堵しました。

グリニッジ天文台でGPSの緯度が0.000になるのを確認し、高台から町を見下ろします。屋台のベーコンバーガーをテイクアウトしてゆっくり昼下がりを楽しみました。

ここまで半そででも暖かく日焼けする感じでしたが、ハイドパークを目指していると急に雨が降ってきました。すぐ止むだろうと思っていましたが、結構な本降りです。一気に震えるほど寒くなりました。もう一度タワーブリッジを通り、ビッグベンまで戻ってきたところで晴れ間が覗き、また暑く感じます。この急激な気温変化に、明日からの走行に一抹の不安を覚えました。

一通り自転車で走ったので、今度は地下鉄でロンドンアイを目指します。このときはひどい雨でした。
ロンドンアイは建設当初世界最大(現在第2位)サイズの観覧車です。ラジアル組みの巨大ホイールに透明なゴンドラがついた感じです。

テロを警戒して手荷物検査をされましたが、怪しいものは入っていません。これらは「撮影機材」なのですから。他の乗客から見つからないように「撮影機材」を組み立てて、こっそりと撮影を敢行します。これで当初予定していたミッションは完了です。テムズ川沿いに歩いてホテルに戻り、mixiに日記を書いて寝ました。

登録日[Registration]

ちょっと無理がある装備

▲輪行袋を無理やり背負います

町一番のフィッシュ&チップス

▲「町一番」という触れ込みのフィッシュ&チップス

待ち行列

▲受付は4時間並びました

土日はホテル至近の地下鉄Victoria Lineが工事のため止まります。そこですべての荷物を背負って自転車で移動します。

London Underground のサイトで色々な回避策を調べ、適当な駅から輪行しようと考えていたのですが・・・結局面倒になって受付まで自走してしまいました。市街地を離れると急に走りやすくなるのは万国共通のようです。

早く着きすぎてしまったので、「町で一番おいしいフィッシュ&チップス」屋さんで腹ごしらえ。

受付時間に戻ってみると・・・長い行列ができていました。これが噂の「キュー」という待ち行列か!
受付待ちのQueueに並びます。炎天下、スタッフが水を配ってくれたり、オーストラリアのPAP(1200kmブルベ)イタリアのミグリア(1001milesブルベ)のパンフレットをもらいました。

2時間ほど経過したでしょうか・・・。ようやく受付です。「じゃあ、8時スタートでいいよね?」 えっ? 僕は14時スタートと聞いていたので、そのつもりで準備していました。しかし選択の余地はなく、ここにきて計画変更を余儀なくされます。スタート地点至近のホテルを予約していて正解でした!

これで終わりかと思ったら、おみやげを受け取る「第2のQueue」が待っていました・・・。皆、強い日差しで首の後ろが真っ赤です。 "Crazy, crazy! See you tomorrow!" と参加者が苦笑していたのがとても印象的でした。

ここでイギリス在住の関戸さん、フランスから直行の坂東さん、そして日本からの高橋さんとお会いしました。
あまりに待ち行列が長いので、ある程度すいてから並ぶとのこと。高橋さんは現金支払いを指定していたら参加者リストに登録されていなかったとかで、スタート時間の交渉に入るとのことでした。しかしこの短い談笑が日本人参加者と会う最後になろうとは。

一度ホテルにチェックインし、ドロップバッグを用意して受付会場に戻り前日のパーティに参加します。しかしどこにも他の日本人参加者は見当たらず、主催者の話が終わったところでホテルに戻りました。

問題は14時スタートのつもりが8時スタートになったこと。なにしろまだGPSにルートの入力が終わっていなかったのです。夜が更ける前までに何とか入力を終わらせて、急いで眠りました。

LEL -1日目- スタートはCheshunt駅

cheshunt駅からスタート

▲cheshunt駅の横からスタート

どこまでも広がる麦畑

▲どこまでも広がる麦畑

補給食の用意はバッチリでした

▲補給食の用意はバッチリでした

日本語のウェルカムボード

▲日本語のウェルカムボードに感動です!

教会の写真

▲教会の写真を頼んだら・・・

パブ併設

▲コントロールにパブがありましたが、営業時間外でした

豪華な朝食を途中で止め、急いでスタート地点に向かいます。ドロップバッグは、1つは海外用輪行袋。これは寝袋にも使えます。もう1つはメッセンジャーバッグPro、つまりすべての荷物を「ドロップバッグ」として預けてしまいました。

なんとなく集団についてCheshunt駅の横に集まりますが、やはり日本人の中で8:00スタートは僕だけのようです。

ところで、ブルベカードにスタートのチェックがありません。近くの人に「サインは要らないんでしょうか?」と聞くと「ああ、誰もしていないさ!」という気楽な返事。確かに、多分必要ないのでしょう。フィリップさんと名乗られたその方と握手し、互いの健闘を祈ります。

8時になり、なんとなく歓声が上がり、なんとなくスタートしました。
うーん・・・。確かにこれだけの人がサインなくスタートしたのだから、問題はないのだろう。しかし僕は今年、国内ブルベでスタートサインを2回ほどもらわずスタートして失格になりかかっていることから、念のためスタッフが詰めているYHAに行ってみることにしました。

「スタートサインは要らないんですか?」すると、「必要よ。上に行ってもらってきて」と女性スタッフ。「あれ、要らないんじゃないの?」と別スタッフ。「いや、スタートの時間が分からないといけないから必要なのよ」

うーん、どっちなんだろう。2Fまで登り、「スタートのサインをもらいにきたんですけど」と言うと「はは、そんなもの要らないよ。自分のブルベカードにある時間になったら駅に行って、自由にスタートすればいいのさ!」たぶん、これが正解です。スタートに戻ろうとしたら鉄道の遮断機が降りていて、電車の通過を待ってから一人コースに戻ります。

▲快調な滑り出し

スタートからしばらくはアップダウンが続きます。でもそういうのは僕は好きな方です。ディスクホイールをゴロゴロ言わせながら走ると・・・「うるさいホイールねえ」「あら、ディスクじゃないの!」と、マダム方を驚かせてしまいました。失礼いたしました。
しかしすぐにコースはまったくの平坦に感じられるようになりました。GPSのお陰で迷うことも無く、信号のない大地に追い風を受けてひたすらに飛ばします。往復コースですから帰りは向かい風ですが、そのことは忘れることにしました。

▲日本語のお出迎え

昼過ぎにはTHURLBYに到着しました。

ようこそThurlbyへ。と各国語で書かれたウェルカムボード。その中に「歓迎する GAMBATTE!」という語句を発見、思わず「すごい」と声に出ました。これを書かれたのはどなたですか? と聞いてみると、年配の男性スタッフであることがわかりました。「どう、あの漢字ちゃんと読める?」読めますとも! しかもそれだけではなかった。厨房にいらしたマダムは「まあ、日本人じゃないの。」『こんにちは』『おはようございます』『きょうはいいてんきですね』と、スラスラと日本語で話し始めました。たった4~5人である日本人参加者のためにそこまで用意してくださったのでしょうか? とても感激です。去り際に「おじき」をし、「ありがとうございます、頑張ります!」と日本語で伝えてコントロールを後にしました。

▲雨と日没

しばらくすると小雨が降ったりやんだりという天気になってきました。

橋の横に止まっているライダーが居たのでパンクかと声をかけたら、レインコートを着るところだったようです。彼の方が僕より2割ほど早い感じです。
コントロールまで残り50kmという頃、こう声をかけられました。
「(GPSを見て)いいもの持ってるじゃないか。雨が降ってキューシートが見にくいんだ。道案内してよ

このLELではひたすらにマイペースで平和な走りをしたかったのですが、ここからは彼に追いついて走るので精一杯。激しくなる雨の中、信号がないので補給するタイミングも無く、ハンガーノック気味になりましたが、日没(21時頃)前に目的地に到着しました。

「僕はここで寝ます」「そうかい、次のコントロールまで行くと効率的だから、先に行くよ」
「夜間走行ですね、どうぞお気をつけて」「ははは、いつものことさ。君も気をつけてね」
「ええ。グッドラック!」「君もな!」

▲簡易ベッド

ここで寝るのは2人目のようです。濡れ鼠状態でしたのでシャワーを浴び、それでも震えながら睡眠用CW-Xに着替えて軍隊式簡易ベッドに横になり、mixiに日記を書いて寝ました。

LEL -2日目- 寒さで目が覚める

ポプラ並木が見えます

▲ポプラ並木が見えます

関戸さん

▲関戸さんに追いつかれました

石垣と羊

▲石垣の向こうの羊がイギリスらしい

Care Wooden Bridge

▲注意:木の橋!

小学校の食堂

▲1時間食事を待ち続けた食堂

峠

▲丘の上からALSTONを望む

コッテージパイ

▲伝統料理コッテージパイ

スコットランド突入

▲スコットランドには大きな標識

幻想的な日没

▲幻想的な日没

コンクリートから浮いてはいるものの、小さめのブランケットでは少々きつく、日の出(5時頃)前に寒さで目が覚めてしまいました。しかし日本時間では真昼ですから、帰国後のことを考えれば今起きた方がいいでしょう。
LELは1400kmありますが、その分制限時間にかなり余裕があります。まるで普通のツーリングのようにゆったりと食事をしてからスタートします。

▲ポプラ並木を超えて

昨日は暗くて気づきませんでしたが、このあたりにはポプラがたくさん自生しているようです。
今年の5月にはポプラ並木を動画撮影するために北海道まで自走したのですが、ハードディスククラッシュによりすべてを失った僕は、このLEL中に絶対にロケをすることを心に決めました。

広大な風景の中に、石垣で囲まれた農地に羊の群れを見る機会も徐々に増えてきました。こちらもまた、ホイールと一緒に羊の画像を撮影してmixiに書き込むという大きな目標があるため、カメラは2台常にスタンバイ状態です。(防水のOptioW60と、夜景用LumixLX3)

▲小学校でのささいなトラブル

MIDDLETON TYASに昼頃到着。小学校の食堂でメニューの紙を渡されます。好きなだけ注文していいと言われ嬉しくなり、何も考えずにたくさんチェックをつけておきます。 厨房での準備が終わると番号がコールされるので、自分のライダー番号を呼ばれたら手を挙げるようです。

30分が経過したところで、当初予定していたスタート時間を過ぎました。たくさん頼みすぎたでしょうか。でも制限時間はたっぷり残っています。落ち着いて来るのを待つことにします。

45分が経過したところで、関戸さんにお会いしました。「食事は待ち時間が長いでしょう、僕は頼むのをやめましたよ」と告げ、関戸さんは行ってしまいました。

60分が経過したところで、いくらなんでもこれはおかしいのではないか? と思い、スタッフに確認してみました。

「僕は585番ですが、まだですか?」「585? いや、もうコールしたよ。あの人じゃないの?」

指差された人を見ると、確かに食事中です。話を聞いてみると、彼は185番のライダーでしたが、間違って手を上げたようです・・・。

「ごめん。僕は英語が苦手だから、たまにこういう出来事に驚かされるんだ」
「いやあ・・・僕もそうですから、気にしないでください(笑)」

彼の注文した皿が来るのを待って食べますが、相当に量が少なくなっていました。スタッフは気を利かせてアイスクリームをサービスしてくれました。

▲羊がいる丘を越えて

このコース最高地点である標高598mの丘を越えます。しかしずっとなだらかな道なのでコース的な問題はありません。
このあたりでは羊がいよいよ路上に姿を現し始めました。なんとかディスクホイールと一緒に撮影したいのですが、羊は臆病な動物です。クリートを外す音にビクッとして、自転車を降りると逃げていきます。
仕方なく、何度も止まって写真撮影を繰り返します。しかしここは登り坂。同じ人を抜いては止まり、撮影中に抜かれ、また抜き返しては止まり・・・日本人はなんて写真が好きなんだ。そう思わせてしまったかもしれません。

次のコントロールALSTONでは、スタッフにビデオ片手に聞かれました。「これはディスクホイール?」「そうです」「これはMANGAよね?」「そう・・・ですね。」
そして裏面を見せながら「本物の羊と一緒に写真を撮りたいんですよ」と言うと「ホイールに羊が!!」と大笑いしてくれました。

▲一日の終わりは全力で(A埼玉のオキテ)

今回僕は毎日日没までにはコントロールに到着してゆっくり寝たいと思っていました。昼飯でだいぶ時間をロスしたので、最後はそれなりに急いで走ります。集団を抜いたら一人飛び出してついてきました。
しかしそのロシア人、アントンさんはより高速で走り、結局着いていくのがやっとのスピードに・・・なぜ毎日こうなるのだろう?
彼は昨日の14時スタートで、ほぼ寝ないで走り続けているようです。GPSが無いので一緒に走ると効率が良いということで、状況は昨日と似ています。違ったのは今度はこちらの燃料が切れてちょっと遅れてしまったことです。エナジーバーを投入、必死に着いていきます。

▲スコットランド突入

主要国道に出て、大きな標識が現れました。スコットランドへようこそ。「写真を撮るから、先に行ってください」とお願いして撮影しますが、道の先で彼は待っていてくれました。申し訳ない、しかし感謝して一緒に走ります。
コントロール手前で急峻なアップダウンが始まりました。と同時に雲の切れ間から信じがたく美しい太陽があらわれ、幻想的な走行となりました。

ESKDALEMUIRには日没とほぼ同時に到着、今日はアントンさんに助けられました。

「ありがとう、とても助かりました。」「? 助けたって、何を?」
「一緒に走ってくれたでしょう?」
すると彼は、照れたように笑いながら手を振りました。「よせよ・・・君だってGPSで助けてくれただろう?」
その仕草がなんとも格好良く、次のコントロールへと走る彼を笑顔で見送りつつ、ベッドへ向かいました。

LEL -3日目- 小雨のスタート

cattle grid

▲パンク妖精 Cattle Grid

虹

▲わかりにくいけど、虹です

虹の巨大ケーキ

▲虹の巨大ケーキ

パンク

▲いろんな意味で「痛い」パンク

ベロシオ人形

▲ベロシオ氏の人形?

round about

▲右折でDALKEITHとなるラウンドアバウト

リンレン・エジンバラ

▲リンレン・エジンバラ!!

エジンバラ市街

▲エジンバラ市街の様子

スコットランド伝統衣装

▲伝統衣装を纏ったスタッフ殿

雨は降り続ける

▲雨です。天候変化が激しい

最高のベッド

▲暖かいベッドで一安心

たっぷりと睡眠をとり、ゆっくり朝食を採ってスタート。コントロールに8時間以上滞在し、今日も気分はツーリングです。
湿っていたサドルが夜間の雨を意味していたようですが、今日も天気は晴れたり雨が降ったり。めまぐるしく変わるとは聞いていましたが、この温度差はなかなか厄介です。

▲虹の輪をくぐる

しばらく山道を登り、雨から晴れに切り替わったその瞬間。はっきりと虹の中を走っていることに気づきました。360度とはいきませんが、開けた大地に何にも隠されることなくつながって見えたことに感動、「虹だ!」と叫んでデジカメ撮影。でも他の参加者はあまり興味が無いのか、日本人は写真が好きなんだなあという感じで通り過ぎて行きました。

しばらく走っていると、「あなたはUKの人ですか?」と声をかけられました。いいえ違いますが、なぜですか? と聞くと、「だってUKのキャップを被っているから」
そう、LELの主催者は各国の国旗を持参して走ることを希望していました。しかし日本の国旗を持ちつつ痛ディスクで走るのはかなり大きな抵抗があり、それとは意識せずにいつも使っているキャップをかぶっていました。それがUKの国旗だったのです。

「ああ、LELに参加するから買ったんですよ」と回答、しばらくNo.1ゼッケンのJohnさんと会話をしました。彼の友達であるイタリアの方を紹介されたりしたのですが、イタリア語が分からず挫折。パンク妖精をかわしながら登っているうちに、見えなくなってしまいました。

シークレットコントロールで巨大なケーキをいただき、いよいよ折り返し地点を目指します。

▲フレッシュ - ベロシオ発見

しばらく走ると、声が聞こえました。「お、Japanese Boy がやってきたぞ!」

Boy = 少年

日本人は海外で若く見えるというが、確かに見た目は若く見えるかもしれない。そして精神年齢も幼い自覚があるので苦笑するしかありません。 ふと見ると、フレッシュと書かれたプレートにベロシオ人形をつけて走ってるではありませんか。なんだ、仲間ですか(笑) 写真を撮ってもいいですかと挨拶してお話ししました。

▲折り返し地点、しかし・・・

天候もとてもよく、気分は最高。9:30頃にはDALKEITH 716kmポイントに到着です。ここには標準でドロップバッグを預けることができるのですが、特に必要なものがなかったのでそのまま送り返してもらいます。

欲張って大量に食料を補給しつつ、考えます。ロンドン-エジンバラに参加していて、ロンドン市街は自転車で走った。しかしこのコントロールはエジンバラ市街から12kmほど南にあるのです。観光ガイドに載っているようなところまで、もうあとほんの少しなのに、ここまできて引き返してよいものだろうか? もちろん、答えは決まっています。

▲エジンバラ城を目指して

ここから先は完全な自己責任。コースをはずれ、一路北を目指します。こんなとき下調べをあまりしていなくても、GPSにヨーロッパ地図が入っていれば交通法規に従ったナビをしてくれるので助かります。

しばらく進むと、反射素材をきたおじいさんが、後輪がツルツルになった自転車を逆さにして、道端で困った様子でした。つい、LEL参加者のつもりで「大丈夫ですか?」と声をかけましたが、すでにブルベのエリアを離れていたのです。変な外人に思われないでしょうか。

「ああ、問題ないよ。ただちょっと後輪が減ってしまってね。君のはロードレーサーだろう? わしのとはサイズが違うし、取り付けられないんだ」確かに、みるとVブレーキに、ツーリング用の太いタイヤです。
「確かにロードレーサーのような走りはできない。でもこれでツーリングにもいけるし、なんたって安かった!」と話が続きます。こちらではブルベのような反射素材を着て走るのは常識なのかもしれません。

GPSナビを使うようになって忘れていましたが、ツーリングの醍醐味は、このようなまだ見知らぬ仲間との会話だったりするのではないか。異国の地でそう感じながら言葉を続けました。

「そうですか、助けられなくて残念です」「いやいや、気にすることはないさ」
「ところで、僕はこれからエジンバラ城に行くつもりなんですよ」
「ほう! そりゃいいな。ここからまっすぐ下ると、大通りがあるから右折、そしたらすぐ左折だ。あとは分かると思うよ」
ちらっとナビのルートを見ると、確かにその通りです。「ありがとうございます!」「ああ、気をつけてな!」「はい、お元気で!」

▲リンレンエジンバラ

ロンドンで真っ赤な2階建てバスが走るのは知っていましたが、エジンバラではクリーム色の2階建てバスが普通に走っているとは知りませんでした。町の中心が近づくと一気ににぎやかになります。ヨーロピアンな建造物と石畳を拝みつつ、エジンバラ城に向かいます。さすがに観光地そのものへ入ってしまうと時間もかかるし盗難も心配なので、横から眺められる位置に止まりました。

さあいよいよミッションです。撮影機材(別名ねんどろいど)をこっそり組み立てます。この容積が思いのほか大きかったので、フロントバッグだけでなくメッセンジャーバッグも背負うことになってしまった。その最大の目的は、エジンバラ城をバックに写真撮影をすることなのでした。

風が強く、とても置いての撮影は不可能と判断。手に握ったままで撮影を強行。
リンレン・エジンバラ、ここに完成です。mixiに書き込みを済ませると、そそくさとDALKEITHに引き返します。

▲ピンチは突然に

風向きが変わって向かい風。本日の目的地までどのくらいかかるか不安になりペースを上げますが、感覚的には「吹き飛ばされてしまうのではいか」と思うほどの強風です。また、気づくと後ろに何人もついていて、これでは止まることができません。必死に走り、ようやく出てきた信号で停止します。
「ひいてくれてありがとう、君はすごいサイクリストだな」と言われますが、まったくもってそんなことはないですから。

現に、ここから急速なペースダウンが始まりました。どうも、腹の調子が本格的に悪化してきました。今もしオナラをしようとしたら、「大惨事」を招く。レーパンとともに人としての尊厳が破壊される。そんな調子です。今朝食べた、消費期限を1日すぎたパンが悪かったのだろうか。しかし何があっても走る以外の選択肢はありません。

雨が降ってきました。そして風はいよいよ強く、嵐と呼ぶにふさわしくなってきました。
両腕が冷えて固まり、STIレバーを倒そうとしたら、レバーに指が負けて曲がってしまうのです!
腕の力で、なんとかシフトチェンジを行います。

ついにあたりは暗くなってきました。そして登り坂です。今朝までの勢いが信じられません。 気がつくと心拍数が67bpmまで落ちていて、これはほとんど寝ているような状態です。
ついに自転車を止め、暗闇で立ち止まります。

フロントバッグを探ると、「バランス栄養食」と「パワーバー」が出てきました。 頼む、効いてくれ。これらの機能性食品に賭けることにして、無理やり口に押し込むと気合で走り始めました。

通常このような緊急装備はあくまで緊急時のためのものであり、使うことはありません。しかし今回は・・・ 非常に役に立ちました。プラシーボかもしれません。しかし、30分後、僕は集団に追いついて、ダリにそっくりな髭をたくわえた参加者とともに夜中のALSTONに到着することができました!

羊ホイールに笑ってくれたスタッフがビデオ片手に聞いてきました。「どう、天気はひどかった?」
実はかなり意識が朦朧としていたのですが、「いや・・・雨は・・・問題じゃないんです・・・か、風が・・・!!

それだけ告げて、トイレにこもった後、暖かいベッドにもぐりこむことができました。
そう、ここはスキー場併設のロッジであり、唯一毛布のある完全なベッドがあったのです、助かった!

LEL -4日目- 雨の峠越えから

共用シャワー

▲公共トイレの中にシャワーがあります

羊に注意

▲羊注意の標識。でかい。

羊を眺めるリンレン

▲羊を眺めるリンレン

学校給食

▲今度は待たなかった学校給食

羊とホイール

▲羊とホイール。逃がさずに撮るのは、これが限界でした

夕暮れ

▲美しい日没

夜景が美しい

▲寒くて止まれない。信号待ちに撮影

もっとゆっくり寝るつもりでしたが、同室の人が次々と起床し「昨日の嵐はすごかったよなあ!ははは!」と大声で会話していたりして、目が覚めてしまいました。それでも5時間以上寝られ、ある程度の回復ができました。

天気は相変わらずの雨で、覚悟を決めて標高598mを目指して登ります。本当は寒いので止まりたくありません。しかし、ディスクと羊を写真に納める可能性があるならば、立ち止まって撮影を行います。

「なあ、あいつさっき見なかったっけ?」「ああ、写真を撮っていたんだろう・・・」
というつぶやきが聞こえ、そしてその人々を抜いて登っていき、また止まる・・・大変失礼いたしました。

峠までは問題なく到着、ここからの下りがどの程度寒いかが問題です。しかも、ここからパンク妖精CattleGridが連続しているのです。しかし神は味方しました、下山すればするほど天候は回復し、ついに晴天となりました。 しかし晴天になると、今度は暑くて仕方が無いのです!

▲悩みは1つに

走行距離が1000kmを突破。加藤元AJ会長は2003PBPの残りが400kmになったとき、これでゴールできたと確信したという手記を思い出しました。しかし、全然そのような心境にはなれませんでした。

今の悩みはなんだろう。おなかが痛い。眠い。寒い。寒い。寒い。
そう、また降り出した雨は徐々に体温を下げ、またまた心拍数が65bpmにまで落ち込みました。

まだ気合が足りないようだ。僕は後ろを振り返り、万一倒れても問題ないのを確認してから、全力で顔を殴ることにしました。すると・・・フロントバッグの重さでバランスを崩し、僕は路肩に突っ込んでいました。

がっしゃーん

軽く。あくまで軽く落車し、本能のとる防御姿勢のままでアスファルトに落下しました。

!!! 痛っ・・・・・・てぇーーーーーーーー!!!

何週間か前、僕は落車で肘の皮膚を1×3cmばかり失っていました。寸分違わぬ位置を、したたかにアスファルトに打ち付けていたのです。

痛い。痛い。痛ーい!

一気に目が覚め、腹の調子や眠さ、寒さなど、本当にどうでもよくなりました。そう、そんなのは甘えていたに過ぎなかったのです。ただ「痛い」ということが、今の僕を元気にしています。そのうち雨が服を通過して傷口に到達、また叫びたいほどの痛みを感じましたが、お陰で元気に走ることができました。

※言うまでもないですが、こんなバカなことは皆様どうぞ体験されませんように・・・

▲でもやっぱり寒いね

コース途中に立派なポプラ並木を発見、動画撮影などをしていたのですが、気がつけば雨の降る中、ついに日没です。 そんなに気温が低いはずはないのです。しかし体が熱を発してくれないと、どうしようもない。ここは全力で走るしかありません。

幸いなことに、コースが東へと向かい、南西の風が悪影響を及ぼさなくなってきました。美しい市街地を抜け、完全に暗くなった頃には1184km地点にたどり着くことができました。

▲シャワールームでの会話

それにしてもなぜ毎日寝る直前には完全な濡れネズミ状態になっているのか。確率75%はおかしいだろうと思いながら朦朧としていると、スタッフの方が「シャワーを浴びてきたらどうだい?」と勧めてくれ、別棟のシャワー室へと案内してくれました。

暖かいシャワーを浴びながら傷口を見ると、大したことはありませんでした。きっと前回の落車の傷がひどかったので、再生するときに盛り上がった傷跡がプロテクター代わりになり、ちょっと血が出た程度で済んだようです。

しばらくすると、恐らくアメリカ人男性が入ってきて、入れ違いにシャワーを浴びました。
「あれ、その傷は転んだのかい?」「いやー、路肩に突っ込んでしまいましてね。でも大したことないですよ」
「俺は今回3回危険な目にあったけど、なんとかなったよ」「ほほう」

「1回目は友達と話しながら走っていたら後輪にはすって、はじかれた。でも、何とか持ち直したんだ」「へえ」
「2回目は標識に突っ込みそうになって、ギリギリのところでセーフ」「危なかったですね」
「3回目は前輪がマンホールですべってねぇ。でもなんとか立て直したよ」「それはそれは」

それ自慢したらいかんだろうと思いつつも、楽しくお話させていただきました。まさに裸の付き合いでした(笑)
彼は次のコントロールまで行くとのことでしたが、僕は夜は走るつもりは無く、簡易ベッドでゆっくりと眠りにつきました。

LEL -5日目- 最終日となる予定の日

ディスク仲間?

▲前後が対照的なディスク仲間?

LEL標識

▲少なかったLELの標識

Public Footpathのかなたに

▲遠くにいい撮影ポイントがあるのに・・・

すべての気象

▲左右は嵐です。遠くは真夏日です

アイスボール

▲氷のかたまりが降るとは・・・

真夏日

▲かと思うと真夏日に。ゴールは近い!

ゴールチェック

▲ゴールチェック待ち

イタリアチーム

▲ありがとうイタリアチーム!

残りはたった217km。制限時間もタップリ24時間。美しい朝焼けを見ながら、これでもうあとは問題なく走って完走だと確信しました。そう、根拠の無い確信を。

朝食を採っていると、スタッフが話しかけてくれました。
「調子はどうだい?」「ええ、まずまずです。たっぷり寝ましたからね」
「ふふ。ちなみにトップの人は、ここで1時間しか寝ていないんだよ」「全部でですか? それはすごい」
「彼はこう言ったんだ。『火曜日の昼までにはゴールできるでしょう。そうしたら・・・』」「そうしたら?」
『水曜・木曜はロンドン見物ですね!』」「ぶはっ

思わず吹きました。これにはスタッフも大笑い。2日ちょっとでゴールとは、当たり前ですが、まったくすごい人はレベルが違うものです。

▲雨上がりのポプラ並木

しばらく走ると、天候は悪化して雨になりました。でももう、それがどうした? という心境です。今日は寝るときの着替えを心配しなくてよいので、持っている服をすべて着て濡らしても大丈夫。その余裕が気持ちを楽にしてくれます。 するとすぐに天気は回復しました。

「雨上がりのポプラ並木を、自転車で駆け抜ける」
そんなシーンの撮影を僕は狙っていましたが、もうまったく絶好の撮影日和です。 うまいことに、ここにはポプラが自生する場所がたくさんありました。機会を見ては止まり、カメラを固定して動画撮影を行います。

もっとも撮影向きな「ポプラ並木」を発見しましたが、それは Public Footpath のオフロードの向こうにありました。意を決して、水溜りの泥道を進んでみましたが・・・これは少し無謀です。恐らく往復1時間で終わる話ではなく、タイヤが壊れたら予備はありません。泣く泣く、遠くからの撮影に留めておきました。
しかしイギリスの自然はロケ地として最高です。また機会があったら訪れてみたいと思いました。

▲激しすぎる天候の変化

昨日までと打って変わり、今日はとても日差しが強い。半そででも汗ばみ、今度は暑くて厳しい感じです。 こんな日は日焼け止めが必要ですが、もうすでに両腕はボロボロに日焼けしています。半そででも厳しい。 かと思っていると、とても怪しい雲行きになり、一気に雨が降ってきます。

でも今日の変化は少し行き過ぎ。一気に暗くなり本降りになったかと思えば、ピカッ、ゴロゴロと雷まで発生! これが噂のストームです。体感気温が、気分的には本当、30℃から5℃に急降下。一気にガタガタ震えて、そのうち疲れてその震えも止まりました。

寒い、寒すぎる・・・本当にカンベンしてくれ・・・。

ほどなく市街地に突入。見ると町中に白い粒のようなものが撒かれており、下水の入り口に溜まっていました。凍結防止剤かなあ。でも、これはよく魚市場で見られる光景のように思えました。つまり、冷蔵保存した発泡スチロールに溜まった「あれ」が捨てられて下水に溜まっている光景・・・。

ダメだ、考えるな。その単語を思い出したら負けだ! 体の心まで冷え切って、もう限界でした。寒さを連想などしたくもありません。でも好奇心が勝るものです。町行く人を捕まえて聞いてみます。

「すみません・・・あの、これって何なんですか?」「タイルのこと?」
「いや舗装ではなく、上にある白い塊のことです。」「ああ、よ。空から降ってきたのよ。」

・・・・・やっぱり。ありがとうと礼を言って走り出しました。話によると、真夏にアイスボールが降ってくるのはよくあることらしいのです。

ほどなく、Gillのブレーカーを着た2名の参加者に追いつきました。
「こんにちは、すごい天気でしたね。」「やあ、まったくこの世の終わりかと思ったよな!」

この世の終わりという表現を実際に聞いて大笑いしてしまいました。
「こんなに寒いなんて知らなかったんですよ。いま、夏ですよね?」
すると、彼はニヤリと笑いながらこう言いました。「そうさ。ようこそ、イギリスの夏へ!!

▲最終区間

いよいよ最後のコントロールを通過。幸い天気は晴れに戻りました。最後が祝福されているようで、気持ちも前向きになります。 最後は細かいアップダウンの区間、でも僕はそういうのは大好きです。 ディスクホイールの轟音を鳴らして坂を上っているためでしょう、誰かに追いつくと声をかけられます。

「この音は(笑)」
「きたなヒルクライマー(笑)」

かなり恥ずかしいのですが、「もう少しですね!」と回答しながら登っていきます。
途中、太い国道を横断するときに停止し、クルマが途切れるのを待ちます。そこで続々と追いつかれます。一人のイタリア人男性が、こちらにニヤッとしながらチュッと投げキス? をしていました。その仕草がとてもキマっていて、格好いいなと思ったものです。かと思うと彼は突然「北京! 北京! こっちだ!」と大声で叫んでいます。

ふと見るとパリ-北京の参加者がミスコースしそうになっていました。そうブルベはレースではありません。言葉の壁はあるけれど、自転車乗り同志が助け合ってゴールを目指すのです。

市街地が近づき、イタリアチームの集団に追いつきました。そして、みんなで揃ってゴール! ありがとう、みんな一緒に走ってくれてありがとう。そんな感謝の気持ちがあふれてきました。

イタリアチームの人が一緒に写真を撮ってくれました。よし、来年はイタリア1001milesのブルベに挑戦するぞ! 今回は、素直にそんな気持ちになったのでした。

エピローグ

▲関戸さん・坂東さんと合流

▲電車にそのまま自転車を積みウェールズへ帰宅する参加者

▲関戸さん宅の焼肉パーティ

▲ホテルまでお送りいただいてしまいました!

YHAに一泊後、関戸さん、坂東さんと合流! 無理を言って関戸さんのお宅に招待していただきました。クルマで僕の自転車を運んでいただき、昼にピカデリーサーカスで待ち合わせることに。

ところが電車が止まっていて、Cheshunt駅からはロンドンまで行けない事が直後に判ります。駅員さんに代替手段を教えていただき、バスと別路線の電車で何とか事なきを得ます。

その後、関戸さんたちと再度合流。中華街でのバイキングの後、クルマでロンドン観光の上、ご自宅の焼肉パーティに参加させていただきました。さらにロンドンの夜景撮影の上ホテルまでお送りいただいてしまいました。この場を借りて、深く御礼申し上げます。

LELはとても素敵な体験でした。あなたも次回はいかがてしょうか? その際は防寒具をお忘れなく!

▲走行記録

今回、Polarは速度/距離が異常な値のところがあり(電波障害?)、GPSも一部ログが未記録などの問題がありました。 信頼できそうなところからの値をまとめておきます。

・走行距離 : 1433km (GPS)
・獲得標高 : 9100m (Polar)
・コース難度 ★★★★★★ (PBPより少しラク)
・出発-到着 : 2009/7/26(日) 8:00 ~ 7/30(木) 18:38
・所要時間 : 107時間ジャスト (ゴール行列待ちが長い)
・実走行時間 : 63時間12分 (GPS)
・移動平均速度 : 22.7km/h (GPS)
・睡眠 : 6 + 6 + 5 + 6 = 23時間, 4回 (GPSから推定)

Report & Photo Hiroshi IMAIZUMI 2009.8.16

Page Top


Copyright 2005-2012 Audax Japan. All rights reserved.